おーっと、これは思わぬところからの攻撃ですよ!

WT/太刀迅、最迅、遊悠、19歳組、チームB。絵を描いたり文章を書いたり。
WT/太刀迅、最迅、遊悠、19歳組、チームB。
絵を描いたり文章を書いたり。

3月これでもいいかなと。

AI迅くんの太刀迅の話です。書きかけ。

「うっそだろ!? レポートの提出期限明日だぞ!?」
 部屋に響き渡る太刀川の悲痛な叫びと、耳をつんざくようなビープ音。その太刀川の目の前には、ブルーバックのまま固まったノートパソコンの画面と、気持ち程度に友人や先輩が貸してくれた参考資料の本の山。
「ありえねぇ! マジでありえねぇ! このレポートで俺の留年の可能性が変わるんだぞ!?」
 風間さんは今任務中、諏訪さんは麻雀でもして負け続けているのか、連絡がつかない。それに付き合ってるのであろう堤も当然連絡がつかない。加古も二宮も助けてはくれないのは火を見るより明らか。
 とりあえず長押しすることでパソコンの電源を落とし、苛立ちを助長するビープ音だけは何とかしたが、今度はどこを何度押しても電源が入らなくなったパソコンの黒い画面を見つめて、呆然とするしかなかった。
 とりあえず開発室にパソコンを持っていく。なんとか生き返らせてやってくれ、こいつのためと言うよりおれのために!
 つーか、今まで書いた文章、残ってるかな……。
 太刀川に保存をこまめに取る癖は、もちろんない。自動でバックアップが取れていれば御の字だが、完全に残っているということはないだろう。そもそもパソコンは生き返るのか?
 開発室には数人のスタッフが残っていたが、誰に見せてもパソコンはお亡くなりになっています御愁傷様ですの言葉しか返ってこなかった。
「ねぇ、データは? 俺のレポートは?」
 縋りつく個人ランク1位A級1位隊長の男の情けない姿は何とも憐れなものだった。
 そこでスタッフが言えることは、「泣いてないで一から書き直せ」でしかなかった。そもそもが学問的に優秀な人材の集まっている開発室である。年中単位ギリギリで戦っている太刀川の気持ちがわかるべくもない。
 開発室の人材はお話にならない。肩をがっくり落とし、何度も諏訪のスマホを鳴らしながら部屋までの廊下を歩く。スマホは虚しく鳴り続けたが、期待する相手の声は聞けなかった。
 そんな中、今度は太刀川のスマホに着信を示す表示が見えた。
「……なんだ」
 大して役にも立たなさそうだ。それどころか、またお説教を喰らって時間が無駄になるのではないか。などと失礼なことを思いつつ、無視するわけにもいかなくて、通話を開始した。
「慶か?」
 相手は太刀川の師匠で現ボーダーの本部長、忍田であった。ボーダー入隊にあたって随分と世話になった。太刀川をボーダーで預かる代わりに、大学は絶対に四年で卒業させると親御さんと約束をしたとかしなかったとか。とにかく、今でもいろいろと世話を焼き、気にかけてくれる。だが、ことレポートに関しては、戦力には……ならないだろうな。
「……何、忍田さん? 俺今マジで忙しいんだけど」
 スマホの向こうでは小さな溜息が聞こえたが、気にしないことにした。
「レポート提出期限前の今になってパソコンが壊れたと聞いたが?」
「うん、めちゃくちゃ困ってる」
「わたしの部屋に、使ってないパソコンがいくつかあるから、それを持っていくといい」
「えーと、ちなみにレポートのテーマは……」
「一から書き直せ」
 相変わらず厳しい師匠である。鍛錬に関し、優しさの欠片もないのは、今も昔も変わらない。
 こちらも溜息をつき、思い出せる限り思い出しながら書くしかないと覚悟を決めた。
「じゃあ、パソコン一台もらいに行くから」
 そう言って通話を切った。
 元々腹はくくっていたし、無駄な足掻きはしないほうである。記憶にある部分から片っ端に打ち込むしかない。自分が何を書いていたかなるべく忘れないようにしながら、慎重に長い廊下を歩いた。
 忍田の部屋に着いてブザーを鳴らす。
『鍵は開いてるから入っていいぞ』
 インターフォン越しに忍田の声が呼び掛けてきた。
 扉を開いて顔を出すと、奥のデスクで書類の山に囲まれた忍田が顔をのぞかせて、棚の上に乱雑に積み上げられている荷物を指差した。そちらのほうを見やると、デスクトップ型のものやノート型のパソコンがいくつか置いてあった。
「もう使ってないものだから、好きなものを持っていっていい」
「んー」
 正直どれも同じに見える……。
 と、ふといくつかの荷物をがさりと持ち上げると、角度によって薄く水色に輝くように見えるデスクトップ型のパソコンが出てきた。
「お、こいついいじゃないか」
 その手に取られたパソコンを見て、忍田は一瞬顔を曇らせた。
「忍田さん?」
「あ、いや、すまん慶、そのパソコンは壊れていて電源が入らないんだ」
「え〜、マジか……」
 そう言って太刀川は残念そうにパソコンの電源スイッチを押した。その瞬間。

 ――――ブン。

 電源が入った。
「!?」
 太刀川ももちろん驚いたが、忍田も同時に驚いた。
「何故――――?」
 忍田は壊れていると言っていた。なのに何故?
 忍田が訝し気な表情をして立ち上がったが、太刀川には何故などと考えている時間がなかった。それを思い出した太刀川は、そのパソコンを右脇に抱え、左脇にモニタとキーボードを抱え、ついでにマウスをズボンのポケットに押し込み、部屋から出た。
「おい、慶!?」
「わりぃ忍田さん、俺マジで時間ないからさ! パソコンは無事起動してるし大丈夫だろ! 何かあったらまた連絡するから!」
 振り向き様にそう言って、太刀川は早歩きでその場を去った。
 部屋に戻った太刀川は、狭いデスクの上をさらに狭くしている参考資料をわきに追いやり、真ん中にモニタを置いて、電源が入りっぱなしのパソコンに無理矢理接続した。
「あれ? そういやこのパソコンの電源って……」
 先程電源ボタンを押したとき、コンセントには繋いでいなかったような……? そう思いながらもパソコンの後ろから出ているケーブルをコンセントに繋ぎ、ああ、充電でもされていたのかと勝手に納得した。
 そんなことより今はレポートだ。
 モニタの電源を入れ、しばらくすると画面が明るくなった。その画面には、目を閉じた男の顔があった。
「うえ、忍田さん悪趣味な壁紙にしてんなぁ」
 そんなことをこぼしつつ、何とはなしにキーボードのエンターキーを押した。すると。画面に映っていた壁紙の男が、ゆっくりと目を開いた……。
「え?」
 画面の中の男と目が合う。透明感のある青い双眸がぼんやりとこちらを見ている。目が……、開いた……よな? 気のせいか……?
「っと、そんなことよりワードワード! 早いとこ打ち込み始めないとな……って、あれ?」
 デスクトップ上には、アプリケーションの類のものが見当たらない。デスクトップ上にあるのは男の胸から上だけだ。
「マジかー、これ最初から入れなきゃならんってことか? ブラウザどこだ……? てか、ワードのIDとパスなんか覚えてないぞ……」
 ゆるく弧を描く柔らかそうな髪を無造作に掻き毟って、太刀川は今日何度目かわからない溜息をついた。これは、忍田に相談すべきだろうか……。スマホに手をかけたところで、パソコンの画面の男が――――口を、開いた。

「あなた、は、だれ、です、か?」

「……は?」
 画面の男の口に合わせて、パソコンから音声が流れた。
 喋った?
 太刀川は格子の目を見張って、ついモニタに向かって話しかけていた。
「お前、今喋ったのか?」
「? はい」
 俺の問い掛けに答えた……? パソコンってそんな機能あったか?
 太刀川はモニタの端に手をかけて、男の顔を、警戒する色でじっと見つめた。
「お前、トリオン兵とかか?」
「トリオン兵……? 違います、おれの名前は迅。いわゆる、AI、です」
「AI……?」
 レポートのことなどすっかり忘れ、太刀川はそのAIに気を取られた。
「お前、俺と会話できるのか?」
「はい、簡単なことなら、可能です」
「どういう仕組みだ? パソコンだからトリオンでできてるわけじゃないよな。でも俺の言ってること、理解できてるんだろう?」
 迅は軽く頷いて、以前自分はある程度の知識を与えられていたこと、そのおかげで太刀川の言葉が理解できていることを説明した。自分の本体は基本的にはパソコンであり、モニタにはイメージされ登録された画像が表示されているのだとも言った。
「スマホと同期できれば、スマホで移動することも可能です」
 太刀川は髭を弄りながら、へぇ、と感心したような顔をしたが、すぐに思い出したようにモニタを掴んで激しく揺さぶった。
「おい、俺今レポートを書かなきゃなんなくて、困ってんだよ! お前何とかならないか!?」
「レポート……? テーマは何についてですか?」
「えーと、確か、『対人関係における心理的発達とコミュニティの形成について』……? みたいな話、だったような……」
 迅が目を閉じ、パソコンからカリカリと音がした。数秒後、迅が目を開けて言った。
「おれの中に、関連がありそうな参考文献が、3582件あります」
「は!? さんぜん!? いや、今からそんなに見てられねえよ。締切明日の17時で、4000字書きたいんだが」
 そう言うと、迅は講義ノートを見せろと言った。
「主張の方向性は決まっていますか?」
「いや、全然」
「決めてもよろしいでしょうか?」
「助かる!」
「講義担当の教員の方の思考性から考えると……」
「あー、そういう説明俺わかんないからさ、迅? だっけ? の思うような内容でいいぜ」
「それだと不正が発覚する可能性が……」
 太刀川は少し首を傾げた。恐らく単語さえ自分の普段使うものであれば、教授も見逃すだろう。何なら、あの太刀川慶がレポートを提出したのだ、という事実だけで、レポート自体には目を通さないことも考えられる……それも少し切ないが。
「迅、お前俺と会話できるんだよな? だったら話してくれた内容俺が文章にするから」
「……なるほど、わかりました」
「文書作成のソフトとか入ってないか?」
「ありますが、少し古いかと」
「使えりゃいいよ。あと、その喋り方、敬語? フツーでいいからさ」
 迅は少し表情を変えて、不思議そうに返した。
「フツー? ですか?」
 太刀川はキーボードをデスクの上に設置しながら、うんうんと頷いた。
「そうそう、それな、『ですか』ってやつとか。お前年齢とかあんの?」
 そう言うと、迅は少し顔を曇らせたようにも見えたが、太刀川はそのときは気にせず続けた。
「パッと見年齢近い感じだろ。俺二十歳。迅は?」
「多分……19」
「じゃあタメでいい。敬語とか使われるとケツがむずむずする」
 そう言うと、迅は不思議そうな顔をしたあとに少し笑って、わかった、と言った。
「ところで、あなたの名前を登録したいので、教えてくれないかな」
「あ、そう言えば名乗ってなかったな」
 そう迅の前に座って言った。
「俺は太刀川。たちかわけい、ってんだ。よろしくな」
「たちかわ、けい……A級1位部隊の隊長……個人ランク1位……45961ポイント……」
 自分の立場をすらすらと挙げられ、太刀川はぎょっとした。ポイント数なんて自分でも覚えてはいなかったが、そんなことまで……? こいつ、実はちょっと自分が持ってきてはまずかったものなのではないか。そんな疑念が浮かぶ。そう言えばあのときの忍田の表情も、少しおかしかった、ような。
「おい、それどこで……」
「ボーダーに登録されてる情報を検索しただけだよ」
 迅はそう言って、何でもないような顔でにこりと笑った。
 ああ、検索か……さっきも参考資料を探してくれたりしてたもんな。そう思って、太刀川は納得し、安堵した。
「じゃあ、早速始めようか、太刀川さん」
「あ、え? なに?」
 突然の迅の言葉に、ぼんやりしていた太刀川は素っ頓狂な声を上げた。その言葉を聞いて、迅は呆れたような表情で、太刀川に言葉を返した。
「何って、レポートだよ。締切今日の夕方17時なんでしょ? もう朝5時だよ?」
「あ、やべぇ! うっかりしてたぜ。頼むぞ、迅」
 そんな太刀川を見て、迅は軽く溜息をついた。
「太刀川さんって、いつもそんな感じなの?」
「別にいつもこんなんなわけじゃねぇよ。戦闘のときとかはちゃんとしてる」
「ふーん……」
 そんなやり取りをしながら、こいつ本物の人間みたいだなぁ……と太刀川は思った。本当にAI、と言うか、パソコン? コンピュータ? 機械、なのか……? この画面の中に実は人間が入ってたりとか……。太刀川は、画面の中の迅を眺めて、モニタの端をこんこんと小突いてみた。迅が首を傾げて、青い瞳が細まり、柔らかそうな茶色の髪がさらりと揺れた。
「太刀川さん?」
「お前って本当にパソコン?」
 迅は一瞬きょとんとし、そして吹き出した。
 そんな表情までできるのか。太刀川は機械には詳しくない。まったくわからないと言ったほうが正しい。トリオンのことも、座学で少し教わったけれど、どう使われてるのか、どう機能しているのか、その仕組みはさっぱりだ。トリオン兵がいれば斬る。それだけだ。だから、機械だと言う迅がまるで人間のような素振りでパソコンのモニタの中にいるのが、本当に不思議だった。ビデオ通話をしていて、ネット回線の向こうに迅という人間がいるんじゃないだろうか。
 そんなことを漠然と考えていると、迅がモニタの中で言った。
「太刀川さん、何度も言ってるけど、おれは正確にはパソコンじゃないよ。AI、つまり人工知能。自分で学習はしていくけど、パソコンに乗っかってるだけのシステム、プログラムだよ。でも、太刀川さんが言おうとしてることはわかる。つまり、」そう言って一つ間を開けて、迅は言った。「おれは、人間じゃ、ない」
 こんなに滑らかな口調、人の考えの先を読んで、答えを出すのに。人間じゃないのか。
「……そっか、変な感じだな。まあ、今はトリオン体があったりトリオン兵なんかもいるし、不思議でもないか」
 緩くカーブを描く髪をかき上げながら、太刀川は笑った。
「お前が何であっても、とりあえずレポート仕上げてくれればいいよ」
 そう言うと、迅は緩やかに微笑んで、じゃあ始めようか、と作業の開始を告げた。

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